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「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する」という当社の使命を将来にわたって力強く果たしていきます。

当社の経営に対する考え方

2023年4月1日より社長に就任した丹羽です。平素よりJR東海グループの経営に一方ならぬご支援をいただき、心より御礼申し上げます。初めに、当社の経営に関する私の考え方についてお話ししたいと思います。鉄道事業者としての最優先事項は安全の確保であり、鉄道会社への信頼は、日々の安全の継続の上に成り立っています。当社は、設備投資を着実に実施するとともに、社員教育や訓練によって社員の力量を高め、ハード・ソフトの両面から安全を不断に追求していきます。当社の鉄道事業のマーケットエリアである東京~名古屋~大阪間は日本経済を支える大動脈であり、大変旺盛な需要があります。当社はこれまで、安全の確保を大前提とした上で東海道新幹線の輸送力を高め、加えてEXサービスの改善等の利便性の向上に取り組むことによって、この旺盛な需要に応え、収益を伸ばしてきました。しかしながら、2020年から始まったいわゆる「コロナ禍」の3年間は大変厳しい経営環境に置かれることになりました。緊急事態宣言下の2020年4月には東海道新幹線及び在来線特急列車の輸送量が前年度から約9割減となり、2020年度、2021年度ともに大幅な赤字を計上し、大変強い危機感を抱きました。2022年度以降は鉄道のご利用やグループ会社の収入もある程度回復しましたが、「コロナ禍」を経て世の中の人々の生活様式や働き方は大きく変化しており、収益を上げる方向性は新しいものにしていかなければならないと考え、「収益の拡大」と「業務改革」の2つの柱からなる「経営体力の再強化」という戦略を打ち立てました。そして、2022年10月には当社の考える「鉄道の将来像」をお示ししましたが、会社全体でその実現に向けて取り組み、キャッシュ・フローを創出することによって、今後も投資とサービス改善の好循環を実現していきます。「経営体力の再強化」という進化・変革にグループ会社を含む社員が一体となってチャレンジし、「コロナ禍」前よりも強靭な経営基盤を持つ会社にしていきたいと考えています。

経営体力を再強化し、投資とサービス改善の好循環を実現します

他方、当社の収益の柱である東海道新幹線もすでに開業から60年近くが経過し、将来の経年劣化や大規模災害等のリスクに抜本的に備える必要があることから、中央新幹線計画を強力に推進しています。中央新幹線に超電導リニアを導入することで、圧倒的な時間短縮効果によって三大都市圏が1つの巨大都市圏となり、日本社会・経済の活性化に大きく資するものとなります。工事の安全、環境の保全、地域との連携を大切にしながら、まずは名古屋までの開業を目指して全力で取り組んでいます。

「ESG経営」の好循環を実現し、日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する

当社が考える「ESG経営」とは、事業活動を進める中で利益、キャッシュ・フローといった「経済的価値」と、持続的かつ豊かな社会を実現するという「社会的価値」を同時に創造しながら、企業を成長させていく経営のスタイルだと考えています。こうした理解に照らすと、当社は「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する」という経営理念のもと、安全最優先の企業文化の確立や経営の健全性の確保を行いつつ、長期的な発展を目指し、すべてのステークホルダーからの信頼を高めるという確固たるガバナンスにより、「経済的価値」と「社会的価値」を同時に創造し、「ESG経営」を実践してきたと言えます。具体的には、日本の大動脈である東海道新幹線と東海地域の在来線について、安全を最優先に正確・快適な鉄道輸送サービスを徹底的に磨き上げるとともに、鉄道事業と相乗効果の高いグループ事業を展開し、低コスト化、効率化、経営体力の再強化に取り組み、収益及び利益を着実に増やすことでキャッシュ・フローを確保して、「経済的価値」を不断に追求してきました。一方で、主力の東海道新幹線を軸とする事業活動において安全・正確・快適なサービスを追求することで、より暮らしやすい社会の実現、地域の発展に貢献するとともに、元来、環境性能の高い鉄道輸送のご利用を促進しつつ、最新技術を取り入れながら環境優位性の向上も不断に図ってきました。こうした事業活動の成果は、安全かつ強靭なインフラの構築、イノベーションの推進、気候変動の影響軽減という形でSDGsの目指す「持続可能な開発」の達成につながっています。

さらに、鉄道事業の運営を支える人材の育成に力を入れ、ジェンダー平等、働きがいのある職場づくりや雇用の促進という観点からも、SDGs達成につながる取組みを日々進めるなど、不断に「社会的価値」を創造してきました。そして、先述の「経済的価値」であるキャッシュ・フローを原資に、さらに安全かつ強靭で環境優位性の高いインフラの整備とサービスの向上、それを支える人材育成とイノベーションの推進を進め、「社会的価値」を創造するとともに、より良いサービスを提供し、多くの方々にご利用いただくという好循環を実現してきました。現在進めている中央新幹線計画も、こうした好循環により実現可能となったわけです。

人材の力を高め、推進力に満ちた組織を目指す

私は1989年にJR東海に入社して以来、現場に近い部署から本社まで様々な部門で人材育成や労使関係の仕事に長く携わってきました。そのため、「ヒト」の力を最大限に高め、活用していくことに強い思い入れがあります。経営資源として「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」とよく言いますが、キャッシュ・フローを生み出していくための施策を考えて実行していくのは「ヒト」であり、人材こそが最大の経営資源です。採用した人材に教育・訓練等の投資をしっかりと行い、高めた能力を存分に活用していくということが、当社の人的資本マネジメントの基本的な考え方です。当社及びグループ会社では、高いポテンシャルを持った社員が数多く働いています。「コロナ禍」の苦しい環境下を乗り越えようと、若手や中堅を含めた多くの社員と議論を交わす中で、発想力やチャレンジ精神に満ちた数多くの社員に出会い、当社が難局を乗り越えるポテンシャルを持っていることを改めて確信することができました。こうした人材のポテンシャルを最大限に引き出し、会社経営に結び付けていきたいと考えています。これまで当社を支えてきた規律、チームワーク、一体感といった価値観を今後も堅持しつつ、今後はこうした価値観をベースに、「自由に考え、大いに議論し、粘り強くやり抜く」という企業文化を醸成していきます。当社を取り巻く環境が変化している中、困難な環境下にあっても様々な施策を起案し、実現することができる推進力に満ちた組織をつくっていきます。強い組織を作る上で、議論の多様性は必要不可欠です。特に、当社は鉄道をはじめ、様々な方々がご利用になる公共性の高いサービスを提供していることから、多様なバックグラウンドを持つ一人ひとりの社員が持てる能力を存分に発揮し活躍していくことが重要だと考えています。育児・介護等のライフイベントと仕事の両立支援制度の充実や、女性活躍推進プロジェクトの取組みにより、これまで以上に男女を問わずすべての社員が意欲や働きがいをもって長きにわたり活躍し、職業人生の充実を図りながら、会社の発展に貢献できるようにしていきます。

地域社会に根差した鉄道会社としての役割を果たす

名古屋・静岡地区を中心とした在来線は地域のお客様の通勤・通学をはじめとする日常の移動手段としての役割を担っています。道路網の発達やテレワークの普及などにより、在来線を取り巻く環境には厳しいものがありますが、運営の効率化やサービスアップにより、当社は地域のインフラ事業者としての役割を果たしてきました。2022年から2023年にかけては新型特急車両HC85系を特急「ひだ」「南紀」に投入し、より多くのお客様に快適で楽しい旅を楽しんでいただきたいと期待しています。また、鉄道をご利用になる方をはじめ、多くの方が集まる駅は地域社会の重要な拠点であり、これまで当社はこの恵まれた立地を活かし、オフィス、商業、ホテル等を展開し、駅の魅力を大きく高めつつ収益を上げてきました。2023年10月からは当社グループの商業施設で貯めて使えるポイントサービスも開始しました。これからもより一層駅を中心とした地域の方々の満足度を高めるサービス提供に工夫を重ねていきます。他方、中央新幹線では、大井川の水資源と南アルプスの環境への影響に関する地域の方々のご懸念もあり、南アルプストンネル静岡工区に着工できていないという課題がありますが、国土交通省主催の「リニア中央新幹線静岡工区 有識者会議」における科学的・工学的な議論を踏まえて、地域の皆様のご懸念・ご不安を解消すべく、双方向の丁寧なコミュニケーションに取り組んでいます。大井川の水資源利用への影響についても、有識者会議が2021年12月に取りまとめた「大井川水資源問題に関する中間報告」を踏まえて、地域へのわかりやすい説明、リスク対応とモニタリングの具体化、工事の一定期間、例外的に県外へ流出するトンネル湧水量と同量を大井川へ戻す方策の実現等に取り組んでいます。

地球環境に優しい鉄道のご利用を促進し、地球環境保全に貢献する

鉄道は他の輸送機関に比べてエネルギー効率が高く、地球環境への負荷が少ないという優れた特性を有しています。持続可能な社会の実現に、鉄道が果たすことができる役割は大きいと考えます。こうした鉄道の特性をさらに向上させるべく、当社は省エネ型車両の導入など様々な取り組みを進めてきました。政府の「2050年カーボンニュートラル」政策を前提にCO2排出実質ゼロを目指すことで、鉄道の環境優位性をさらに高めていきます。また、「東海道新幹線再生アルミ」の活用等、廃棄物の削減や資源の再利用を通じて地球環境への負荷を低減していきます。直近の取組みとしては、東海道新幹線の盛土を活用した太陽光発電に着手することを2023年11月に発表しました。これまで未活用であったアセットを活かして再生可能エネルギーを新たに生み出す、鉄道会社だからこそ可能な社会貢献だと考えています。これらに加え、当社は2021年5月にTCFD※の提言に賛同し、すでに2022年4月には河川氾濫の増加に伴う東海道新幹線の設備損害について定量的に分析して開示していますが、大雨による利益損失に関する分析も完了したため、今回開示をさらに拡充しました。今後も継続して気候変動に関するリスクと機会の把握に努め、情報開示を進めていきます。
※TCFD : Task Force on Climate-related Financial Disclosureの略。気候関連財務情報開示タスクフォース。

ステークホルダー間のバランスを意識したガバナンス

鉄道事業は公益性が高く、様々なステークホルダーの支えがあって成り立っています。特定の利害関係者に偏重することなく、すべてのステークホルダーの皆様からの信頼を高め、企業として持続的に成長し、「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する」という当社の使命を果たし続けていきます。その上で、株主還元の方針としては、健全経営を堅持しながら、中央新幹線計画等の各種プロジェクトを着実に推進するための内部留保を確保し、配当については安定配当を継続することを基本方針としています。この方針に基づいて、「コロナ禍」で純損失を計上した期間も一定の配当を継続しました。まずは、早期に「コロナ禍」前の経営状態に回復させ、さらにそれを上回るよう、先述した様々な取組みを力強く推進していきます。私たちは長期的な目線での設備投資、人材育成等を通じて、日本の大動脈を担う東海道新幹線の安全・正確・高速・高頻度という特性を磨き上げ、東海道新幹線とネットワークをなす東海地域の在来線、さらには、グループ事業を引き続き強化していきます。中央新幹線計画もこのような文脈の下、当社の使命を果たし続けるために推進するものであり、将来にわたって当社の経営を安定させ、株主の皆様をはじめとしたすべてのステークホルダーの利益を確保することに繋がると考えています。ステークホルダーの皆様におかれましては、より一層のご支援と、当社グループに対するご理解を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

本ページに掲載されている内容は2023年9月末時点の情報です。