当社の経営に対する考え方
社長の丹羽です。平素よりJR東海グループの経営に一方ならぬご支援をいただき、心より御礼申し上げます。初めに、当社の経営に関する私の考え方、昨今の取組みについてお話ししたいと思います。鉄道事業者として最優先に取り組むべきことは安全の確保であり、日々の安全を継続することで鉄道会社への信頼も得られています。当社は、設備投資を着実に実施するとともに社員教育や訓練によって社員の力量を高め、ハード・ソフトの両面から安全を不断に追求しています。当社の鉄道事業のマーケットエリアである東京~名古屋~大阪間は日本経済を支える大動脈であり、大変旺盛な需要があります。当社はこれまで、安全の確保を大前提とした上で東海道新幹線の輸送力を高め、加えてEXサービスの改善等の利便性の向上に取り組むことによってこの旺盛な需要に応え、収益を伸ばしてきました。このような取組みは2020年3月のダイヤ改正において、お客様のご利用が多い時間帯に「のぞみ」を1時間あたり最大12本(平均で5分に1本)走らせることができる「のぞみ12本ダイヤ」という形で結実しました。しかしながら、ほぼ同時期に始まったいわゆる「コロナ禍」によって経営環境は大変厳しい状況となり、結果として、2020年度、2021年度においては大幅な赤字を計上することとなりました。その後、日本の経済・社会は「コロナ禍」を脱し、今では「コロナ禍」前に近い状況まで正常化したように感じられますが、在宅勤務やリモート技術の普及など、世の中の人々の生活様式や働き方は、「コロナ禍」を経て大きく変化しています。加えて、日本における少子高齢化や労働力人口の減少が加速していくことを踏まえると、労働集約的な性格が強い鉄道の仕事については、機械化や自動化を含め、より生産性を高めるため、そのあり方を見直す必要があります。当社の業績は、「コロナ禍」から脱し回復傾向にありますが、当社を取り巻く経営環境が大きく、速く、変化しています。こうした変化を的確に捉えながら、「収益の拡大」と「業務改革」の2つの柱からなる「経営体力の再強化」に取り組み、キャッシュ・フローを創出する力を高めていくことが重要だと考えています。1つ目の柱の「収益の拡大」に関しては、様々な取組みにチャレンジしてきた成果が少しずつ結実してきています。まず、ビジネスのご利用については、「会いにいこう」キャンペーンにより、会って対面で仕事をすることの価値を訴求するとともに、新幹線のご利用の前後を通じてシームレスに仕事ができるよう、駅や車内の環境を整備しました。また、プライベートのご利用については、アニメ、ゲーム等の訴求力のあるコンテンツを有する企業や地域の方々と連携した「推し旅」や「貸切車両パッケージ」の活用により、新たな移動需要の創出に取り組んでいます。さらに、インバウンドへの対応についても、日本に滞在する期間が長く、新幹線のご利用が多い欧米豪から来日されるお客様を中心に、ターゲットを重点化して、現地の旅行会社との連携やSNSを活用したプロモーション活動により、東海道新幹線を選んでいただけるような取組みを進めています。このような取組みは、「のぞみ12本ダイヤ」によって拡大した輸送力があるからこそ実現できるものであり、これまで地道に積み重ねてきた施策の成果でもあります。今後も、ビジネス需要を着実に増やす努力を継続しつつ、多様化、個別化した需要もしっかりと取り込んでいけるよう、戦略的に取り組んでいきます。加えて、これまではほとんど変えてこなかった商品価格についても、一部改定をしています。2023年度には「エクスプレス予約」、「ジャパン・レール・パス」の価格改定を実施しました。今後は、より良いサービスを提供し、サービスに見合った料金をいただくということを念頭に、2026年度以降、東海道新幹線へ個室を順次導入していくことを予定しているほか、新幹線の新たな座席の在り方について引き続き検討を進め、当社の輸送サービスの付加価値を高めていきます。2つ目の柱の「業務改革」に関しても、在来線のワンマン運転や、新幹線の車両の外観検査、地上設備の営業車検測など、着実に取組みを進めてきています。しかしながら、労働力不足が顕在化していることに加え、今後はインフレの影響によるコスト増にも対応する必要があります。「業務改革」の当初の目標を達成するための具体的なメニューは既に整理できていますが、これに満足することなく、今後も様々な技術革新を貪欲に取り入れて、「業務改革」の裾野を広げ、さらなるメニューの拡大や掘り下げを行っていきます。
経営体力を再強化し、投資とサービス改善の好循環を実現します
他方、当社の収益の柱である東海道新幹線はすでに開業から60年が経過し、将来の経年劣化や大規模災害等のリスクに抜本的に備える必要があることから、当社は中央新幹線計画を強力に推進しています。大規模災害等のリスクに関しては、これまでも当社は、南海トラフ巨大地震等が懸念されている状況を踏まえ、中央新幹線計画の必要性をご説明してまいりましたが、2024年8月には、日向灘を震源とする地震の発生を受けて「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が初めて政府から発表され、大規模災害等のリスクがより現実感をもって感じられる事態となりました。このような昨今の状況を踏まえると、東海道新幹線のバイパスとしての中央新幹線の必要性は年々高まっていると認識しています。また、中央新幹線を超電導リニアにより実現することで、圧倒的な時間短縮効果によって三大都市圏が1つの巨大都市圏となり、日本社会・経済の活性化に大きく資するものとなります。工事の安全、環境の保全、地域との連携を大切にしながら、まずは名古屋までの開業を目指して全力で取り組んでいます。
「ESG経営」の好循環を実現し、日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する
当社が考える「ESG経営」とは、事業活動を進める中で利益、キャッシュ・フローといった「経済的価値」と、持続的かつ豊かな社会を実現するという「社会的価値」を同時に創造しながら、企業を成長させていく経営のスタイルだと考えています。こうした理解に照らすと、当社は「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する」という経営理念のもと、安全最優先の企業文化の確立や経営の健全性の確保を行いつつ、長期的な発展を目指し、すべてのステークホルダーからの信頼を高めるという確固たるガバナンスにより、「経済的価値」と「社会的価値」を同時に創造し、「ESG経営」を実践してきたと言えます。具体的には、日本の大動脈である東海道新幹線と東海地域の在来線について、安全を最優先に正確・快適な鉄道輸送サービスを徹底的に磨き上げるとともに、鉄道事業と相乗効果の高い関連事業を展開し、低コスト化、効率化、経営体力の再強化に取り組み、収益及び利益を着実に増やすことでキャッシュ・フローを確保して、「経済的価値」を不断に追求してきました。一方で、主力の東海道新幹線を軸とする事業活動において安全・正確・快適なサービスを追求することで、より暮らしやすい社会の実現、地域の発展に貢献するとともに、元来、環境性能の高い鉄道輸送のご利用を促進しつつ、最新技術を取り入れながら環境優位性の向上も不断に図ってきました。こうした事業活動の成果は、安全かつ強靭なインフラの構築、イノベーションの推進、気候変動の影響軽減という形でSDGsの目指す「持続可能な開発」の達成につながっています。さらに、鉄道事業の運営を支える人材の育成に力を入れ、ジェンダー平等、働きがいのある職場づくりや雇用の促進という観点からも、SDGs達成につながる取組みを日々進めるなど、不断に「社会的価値」を創造してきました。そして、先述の「経済的価値」であるキャッシュ・フローを原資に、さらに安全かつ強靭で環境優位性の高いインフラの整備とサービスの向上、それを支える人材育成とイノベーションの推進を進め、「社会的価値」を創造するとともに、より良いサービスを提供し、多くの方々にご利用いただくという好循環を実現してきました。現在進めている中央新幹線計画も、こうした好循環により実現可能となったわけです。
経営課題の解決に向けて、組織、人材の力を強化する
私は1989年にJR東海に入社して以来、現場に近い部署から本社まで様々な部門で人材育成や労使関係の仕事に長く携わってきました。そのため、「ヒト」の力を最大限に高め、活用していくことに強い思い入れがあります。「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」とよく言いますが、キャッシュ・フローを生み出していくための施策を考えて実行していくのは「ヒト」であり、人材こそが最大の経営資源です。採用した人材に教育・訓練等の投資をしっかりと行い、高めた能力を存分に活用していくということが、当社の人的資本マネジメントの基本的な考え方です。冒頭お話しした「収益の拡大」と「業務改革」を達成するには、従来のやり方にとらわれず、果敢にチャレンジすることが必要不可欠です。私は社長に就任以来、「自由に考え、大いに議論し、粘り強くやり抜く」という取組み姿勢の重要性を強調してきました。すなわち、様々な知識・技術をベースにしつつ、従来の枠に縛られることなく社員が発想力豊かに考え、率直に意見をぶつけ合い、議論を通じて、単なるアイデアだったものを形のある施策に進化させていくということ、そして周囲を巻き込んで最後まで責任を持ってやり切るということが大切であり、「挑戦」をやり抜き、「変革」を達成することをこれまで以上に高く評価したいと考えています。そのような問題意識から、能力を最大限に発揮し成長できる環境を整えることを目的として、人事・賃金制度を2025年に大きく変更します。また、当社は鉄道をはじめ、様々な方々がご利用になる公共性の高いサービスを提供しており、多様なバックグラウンドを持つ一人ひとりの社員が持てる能力を存分に発揮し活躍していくことが重要だと考えています。これまでも柔軟な働き方の整備、育児・介護等のライフイベントと仕事の両立支援制度の充実、女性活躍推進プロジェクト等に取り組んできましたが、引き続き、すべての社員が意欲や働きがいをもって長きにわたり活躍し、職業人生の充実を図りながら、会社の発展に貢献できるようにしていきます。
地域社会に根差した鉄道会社としての役割を果たす
名古屋・静岡地区を中心とした在来線は地域のお客様の通勤・通学をはじめとする日常の移動手段としての役割を担っています。道路網の発達やテレワークの普及などにより、在来線を取り巻く環境には厳しいものがありますが、運営の効率化やサービスアップにより、当社は地域のインフラ事業者としての役割を果たしてきました。2024年度においては、静岡地区で18年ぶりの新車両となる在来線通勤型電車315系を6月より順次投入しており、これまで以上に快適な移動を楽しんでいただきたいと思います。また、鉄道をご利用になる方をはじめ、多くの方が集まる駅は地域社会の重要な拠点であり、これまで当社はこの恵まれた立地を活かし、オフィス、商業、ホテル等を展開し、駅の魅力を大きく高めつつ収益を上げてきました。「コロナ禍」後は、当社グループのアセットを最大限活用して、鉄道利用者だけではなく、観光客、沿線居住者を主な対象として、自治体・事業者と協働・共創しながら、顧客視点で商品・サービスを提供することで、沿線都市と移動の価値を高め、グループ事業の収益を上げるとともに、鉄道の輸送需要を生み出すような相乗効果を狙った取組みを進めています。
地球環境に優しい鉄道のご利用を促進し、地球環境保全に貢献する
鉄道は他の輸送機関に比べてエネルギー効率が高く、地球環境への負荷が少ないという優れた特性を有しています。持続可能な社会の実現に、鉄道が果たすことができる役割は大きいと考えます。こうした鉄道の特性をさらに向上させるべく、当社は省エネ型車両の導入など様々な取組みを進めてきました。政府の「2050年カーボンニュートラル」政策を前提にCO2排出実質ゼロを目指すことで、鉄道の環境優位性をさらに高めていきます。また、地球環境保全意識のさらなる高まりを踏まえ、2023年9月に東海道新幹線の駅間ごとの一人当たりのCO2排出量を公表しました。この数値をベースに、2023年10月からは「貸切車両パッケージ」でのオプションとしてお客様のCO2排出量をオフセットするサービスを、2024年4月からはエクスプレス予約法人会員向けにCO2フリー電気を活用することでCO2排出量が実質ゼロとなるサービスを開始しています。このような取組みによって、鉄道事業者として環境問題の解決に貢献することに加え、脱炭素社会への移行に向けたニーズを捉え、収益の拡大にも繋げていきます。TCFD※への対応については、当社は2021年5月にTCFDの提言に賛同し、東海道新幹線に関して、2022年には河川氾濫の増加に伴う設備損害について、2023年には大雨による利益損失について、定量的に分析して開示していますが、さらに高潮による設備損害に関しても今回開示をさらに拡充しました。今後も継続して気候変動に関するリスクと機会の把握に努め、情報開示を進めていきます。
TCFD: Task Force on Climate-related Financial Disclosureの略。気候関連財務情報開示タスクフォース。
また、「東海道新幹線再生アルミ」の活用等、廃棄物の削減や資源の再利用を通じた地球環境への負荷低減にも継続して取り組んでいきます。
ステークホルダー間のバランスを意識したガバナンス
鉄道事業は公益性が高く、様々なステークホルダーの支えがあって成り立っています。特定の利害関係者に偏ることなく、すべてのステークホルダーの皆様からの信頼を高め、企業として持続的に成長し、「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する」という当社の使命を果たし続けていきます。その上で、株主還元の方針としては、健全経営を堅持しながら、中央新幹線計画等の各種プロジェクトを着実に推進するための内部留保を確保し、配当については安定配当を継続することを基本方針としています。この方針に基づいて、「コロナ禍」で純損失を計上した期間も一定の配当を継続しました。また、各期の配当金額は、経営環境、業績を踏まえて決定しており、2023年度の期末配当を増配した他、2024年度の配当予想も年間ベースで増配しており、「コロナ禍」前の2019年度の年間配当の水準にまで戻してきています。今後も「経営体力の再強化」によって利益とキャッシュ・フローを増やし、持続的な企業成長を目指していきます。私たちは長期的な目線での設備投資、人材育成等を通じて、日本の大動脈を担う東海道新幹線の安全・正確・高速・高頻度という特性を磨き上げ、東海道新幹線とネットワークをなす東海地域の在来線、さらには、関連事業を引き続き強化していきます。中央新幹線計画もこのような文脈のもと、当社の使命を果たし続けるために推進するものであり、将来にわたって当社の経営を安定させ、株主をはじめとしたすべてのステークホルダーの利益を確保することに繋がると考えています。ステークホルダーの皆様におかれましては、より一層のご支援と、当社グループ事業に対するご理解を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
本ページに記載されている内容は2024年9月末時点の情報です。